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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)828号 判決 1979年2月28日

控訴人

岡田海運株式会社

右代表者

岡田信雄

控訴人

株式会社安保商店

右代表者

安保康夫

右両名訴訟代理人

江谷英男

外一名

被控訴人

日本火災海上保険株式会社

右代表者

右近保太郎

右訴訟代理人

飯村佳夫

外三名

主文

控訴人岡田海運株式会社の控訴を棄却する。

原判決中控訴人株式会社安保商店に関する部分を次のとおり変更する。

控訴人株式会社安保商店は被控訴人に対し金九二〇万七六二九円及びこれに対する昭和五二年七月九日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

被控訴人の控訴人株式会社安保商店に対するその余の請求を棄却する。

被控訴人と控訴人岡田海運株式会社との間では控訴費用は同控訴人の負担とし、被控訴人と控訴人株式会社安保商店との間では訴訟費用は、一、二審を通じこれを二分し、その一を被控訴人、その余を同控訴人の負担とする。

この判決は、被控訴人勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

当裁判所の判断は、次に付加訂正するほか、原判決理由一ないし四(原判決四枚目表五行目から六枚目表末行まで)に説示されたところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決四枚目表五行目「事実」の次に「並びに控訴人岡田海運が「ぜんまあ」の船舶管理人であること」と挿入する。

2  <省略>

3  同八行目「本件航行」を「本件積荷の船積港であるフイリピンのオルモツク及びマニラから本邦に向けての本件航行」と、同八、九行目にかけて「デツキプレート」を「第四、第五油槽部デツキプレート」とそれぞれ改める。

4  同裏一一行目末尾に行を改めて「5同船は、本件航行に先立ち昭和五一年六月上旬頃アンモニアを積込むべく小名浜港に回航されたが、その際既に前記デツキプレートには全般に点蝕や著しい衰耗が存し、そのため該荷主は積荷を拒み、船長は控訴人岡田海運の幹部に対しその修理を求めたが、同控訴人の幹部はこれを容れず、同船はその指示により本件積荷を積込むべくフイリピンに向け発航し、本件航行に至るまで修理はなされなかつた。(改行)61記載の荒天は、該海域において希なものではない。」と挿入する。

5  同五枚目表初行「発航の当時」から同六行目までを「本件積荷の船積港であるオルモツク及びマニラ各発航当時、船舶の構造に欠陥があつて、船舶自体が安全に航海できる状態にあつたといえか否か疑わしく、積荷を通常の海上危険に耐えて安全に目的地にまで運送できる能力(堪貨能力、広義の堪航能力に含まれる。)を有しなかつたことが明らかであり(国際海運法五条一項一号、三号、なお最高裁判所昭和四九年三月一五日判決民集二八巻二号二二二頁参照)、船舶管理人たる控訴人岡田海運において船積港発航時に堪貨能力のないことを認識しながら、船長に命じて本件航行を行わせたものというべきであつて、このことが本件積荷の損害発生の原因であるということができる。同船が昭和五〇年八月船舶安全法に基く第一種中間検査に、昭和五一年八月二八日あるいは昭和五二年八月三〇日までに各油槽部分につきそれぞれ膨脹トランク部上部板(デツキプレート、本件破損箇所に合致する。)等を取替える旨の指定を条件として合格したことは当事者間に争いがなく、本件航行は右指定期限前のことであつて、控訴人らは右指定に違反したとはいえないのであるが、その故をもつて、同船が本件航行時に堪航能力(堪貨能力を含む。)があり、また、堪航能力を欠いたまま出航した点につき船舶管理人等に過失がなかつたとはいえず、むしろ、同船は右検査においてその欠陥を指摘されたのであるから、船舶管理人等は指定期限にかかわらず、常々右指摘に留意し、適時に欠陥箇所を取替える等の措置をとるべきであつたのに、これを怠つたものということができ、右検査結果は、前記認定判断を左右せず、本件事故が天災によるとの控訴人ら主張は採用しない。(改行)してみると、控訴人らは、同船による本件積荷の運送につき国際海運法二条二項の運送人(船舶所有者)として、その船舶管理人(控訴人岡田海運)において重大な過失により堪貨能力担保義務を怠つたことに基き、同法三条一項、五条一項(同法四条一項、二項、五条二項による証明はない。)及び同法二〇条二項により準用される商法五八一条により、民法四四条(準用)、七一五条一項により(控訴人らは船舶共有者として民法上の組合を構成し、船舶管理人たる控訴人岡田海運がその業務執行者であると解される。)、さらに、控訴人岡田海運は船舶管理人として同条二項により、船荷証券の所持人たる三井物産に対し本件積荷の滅失・損傷につき損害賠償の責を負うものといわなければならない。そして、控訴人らの運送契約に基く船舶共有者(組合員)個人としての損害賠償義務は、国際海運法二〇条一項、商法六九六条(同条により同法五一一条、民法六七五条の適用は排除されるものと解される。)によりその共有持分の価格(控訴人岡田海運が一〇分の七、同安保商店が一〇分の三であることは成立に争いのない甲第一号証により明らかである。)に応じた責任範囲に限られる。また、控訴人らの不法行為に基く賠償義務についても、商法六九六条は「船舶ノ利用ニ付テ」と規定しており、契約責任にこれを限定しておらず、不法行為責任をも含むものというべく、したがつて控訴人安保商店がその持分価格の割合を超えて責任を負うべき理由はないと解するのが相当である。もとより、民法七一五条二項による船舶管理人としての控訴人岡田海運の責任は損害全部に及ぶ。以上要するに、控訴人岡田海運は右損害全部につき、同安保商店は同損害額の一〇分の三の限度において賠償義務を負う。(改行)控訴人らは、荷送人は積荷に際し船舶の堪貨能力を調査すべき旨主張するが、かかる義務が存すると認めるべきいわれはなく、その他過失相殺をなすべき事情は見出せないから、控訴人らの過失相殺の主張は採用しない。」と改める。

6  同九行目、同裏一、三、七行目及び一一行目から一二行目にかけて「糖密」をいずれも「糖蜜」と訂正し、同四行目「保険価格は、」の次に「本件糖蜜のCIF価格にその一〇%を上乗せした価格であつて、特段の事情のない限り本邦(到着地)における市場価格を下回るものであり、」と、同六枚目表二行目末尾に「そして、控訴人岡田海運に対する賠償請求権は右全額に及ぶが、同安保商店に対する請求権はその一〇分の三にあたる九二〇万七六二九円に限られる。」とそれぞれ挿入する。

7  同九行目「被告らは」から同一〇行目「これ」までを「被控訴人に対し控訴人岡田海運は三〇六九万二〇〇六円、同安保商店は九二〇万七六二九円及び右各金員」と改める。

よつて、被控訴人の控訴人岡田海運に対する請求はすべて理由があるのでこれを認容すべきであるから、これと同旨の原判決は相当であつて、同控訴人の控訴は理由がないのでこれを棄却し、被控訴人の控訴人安保商店に対する請求は右限度においてのみ正当として認容すべきであるから、右趣旨にしたがい原判決を変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する

(山内敏彦 田坂友男 高山晨)

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